一話

一話

 一人、また一人と倒れていく。目の前で鋭い眼光を放つ人物の実力を知っていると思っていた。それが思い違いだと自覚した。自分が知っている以上の実力を前に自身を奮い立たせ、目の前の人物と対峙する。
「やはり、お前では──」
「……っ!」
 恐れなのか、はたまた興奮なのか。両手が震えで止まらない。そして、また一人倒れたと同時に目の前にその人物は現れ、俺に向かって刃を振り下ろそうとしている。
「俺じゃ、駄目なのか。守れないのか……仲間も、世界も……っ!」
 死ぬ。直感的にそう思った。最後の力を振り絞り、持っている武器で応戦しようとしたが意味はなく、そのまま振り下ろされる刃は俺の身体を──

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
 刃が己を斬ると同時に、飛び起きた。汗をたくさんかいているのか、服が身体に張り付いていて気持ちが悪い。
「夢……?」
 夢にしては、かなり現実的というか。まるで本当に体験したかのような、恐ろしい夢だった。未だに思い出しては、身体が震える。
 しかし、あの対峙していた相手は一体何者だったのだろうか。そして、倒れていた人々は俺と関係があるのだろうか。
「……いや、そんな訳ないな。見覚えのない奴らだった。それになんで戦っていたんだ……こんなにも、平和だっていうのに」
 窓から差し込む朝陽を見つめながら、汗でびしょびしょになっていた寝間着を脱いで普段着へと着替えることにした。

「……今日の予定は……お、師匠せんせいの剣術指南の日かっ!」
 自らの予定を確認する為の手帳の頁には、お世辞でも綺麗とは言えない手書きの文字が散乱している。
「座学は嫌だけど、剣術指南は好きだからな。よし、行くか」
 頭を働かせるよりも、体を動かす方が性に合っている。鼻唄混じりで部屋を出て師匠が待っているであろう鍛練場へと向かう道中、多くの人々が頭を下げていく。
「おはようございます、導師様」
「ご機嫌麗しゅう、導師様」
 気分が良い。多くの人々が、俺に媚びへつらう。自分が誰よりも偉く、誰よりも上の存在なのだと今一度自覚出来る。俺はこの頭を下げている奴らとは違う。一段上。そんな存在なのだ。
 気分が良くなり、緩む頬を隠さずに歩み続けていたところ一人の人間と目が合った。同い年くらいの、眼鏡をかけた緑色の髪の少年は含み笑いを浮かべながら俺に近付いてきた。
「おはようございます、導師様。随分と優雅な起床のようで。普段よりも、有意義な朝をお過ごし出来たようで何よりです」
「……それは、俺が寝坊したのを馬鹿にしているのか」
「いえいえ、そんな訳ありません。導師様を馬鹿にするなど言語道断」
「そう聞こえた。なんなんだお前は」
「自分はしがない管理職の一人ですよ。では導師様、ごきげんよう」
 長い襟巻きを翻し、少年は変わらず含み笑いのまま去っていった。なんだったんだ。せっかく気分が良かったというのに、急に苛立ってきた。ああ、せっかくの師匠の指南の日なのに。腹立たしい。曇った気持ちを抱えながら、師匠の待つ鍛練場に着いた。そこには──
「おはよう、ハル。どうしたんだい、そんなに口を尖らせて。せっかくの綺麗な顔が台無しじゃないか」
「バンジョウ師匠……いえ、別になにもないです」
「なにもないのに、そんな不機嫌そうにするものではないよ。ハルは次期導師なんだ、常に皆を安心させるような……そんな顔をしていなければいけない」
 そう言われても……いや、違う。師匠は間違ったことは言わない。俺の修行不足なだけなんだ。
「師匠、すみません。今一度、気持ちを正すためにも教えてください。導師とはなにか。この世界とはどんなものなのかを」
「今の時間はハルの好きな剣術の授業なのに、良いのかい? 座学のようになってしまうけれど」
「……う、打ち込みしながらで……お願いします」
「っはは、素直で宜しい。では、まずはこの世界の神について──」

 この世界には、知恵の神が祭られている。知恵の神は統計学の研究により万物の未来を予言出来るようになったという。知恵の神はその予言を世界で暮らす人々に伝えたいと願ったが、神と人間では知力の違いから対話することが難しく、叶わずにいた。
 しかしある日、神と人間の両者と対話が出来る存在が現れた。その人間が主体となり、知恵の神と予言を共同するようになったという。人々の文化で知識の共有ができる要素であるもの──書物、文章、洋墨で神の予言は国全体に共有されるようになった。
 予言の中に散りばめられた火山の噴火、津波、大地震などの天災や大小関わらず起きる出来事。共にそれらの解決策が開示された。人々は最初、予言に対し半信半疑だったが歴史に残る天災や事件、その他の多くの出来事は神の予言の通り、なんの狂いもなく起きたことにより神の予言を信じざるを得なくなった。
 やがて知恵の神と人々を繋いだ人間を、初代【導師】として崇め奉るようになった。
 導師はその力量を買われ、とある組織に属することとなった。人々の生活の基盤を作り上げるこの組織に。初代からずっと、導師はここで暮らしその使命を全うするのだ。
 導師は初代からずっと途切れずに存在している。先代が亡くなってから半刻以内に産まれた人間は次代の導師なのだと云われている。
 俺もそうだったらしい。先代が亡くなってから半刻内に産まれた。だから、俺は次期導師なのだと師匠から教わっている。それに師匠から他に同じような境遇の存在がいるというのを聞いた事がない。だから俺が確定で次期導師だ。
 俺の両親は早くに亡くなっているのだと聞かされているが、別に興味はない。俺にとって、師匠が親のようなそんな存在だから。
 そういえば、師匠って組織ここではどんな存在なのだろう。俺に、こうして剣術や世界について、様々な教育をしてくれるけれど。目線を合わせると、師匠は柔らかな笑みを浮かべながら俺の木剣を軽くあしらう。師匠は本当に強い。
「……っはぁ……はぁ……」
「ハル、息が上がっているよ。それと踏み込みが教えと違う。剣が軽い……教えたことを忘れたのかな」
「す、すみません……師匠……」
「基本的な体作り、忘れていないかな?」
「はい……毎日、ちゃんと……しています」
 俺は息をするのも大変だというのに、師匠はなにも変わらないまま。凄い、本当に凄い。俺も師匠のようになれるのだろうか。いや、違う。ならなければいけないんだ。
 俺は、他の人たちとは違う。俺は次期導師なのだから。
 近い将来、たくさんの人達から羨望を浴びる存在なんだ。だから、俺はやらないといけない。強くなって、大勢の人に尊敬される。そんな存在になるんだ。
 なのに、なぜだろう。今朝見た夢を思い出した。倒れていく人々。俺には出来ない、俺にはなにも守れない。あの時対峙していた謎の人物にも、そんな感じのことを言われた気が──
「……ハル、一旦止めよう。木剣を下ろしなさい」
「えっ……いやっ、おっ……俺はまだ出来ますっ!」
「顔色があまり良くない……休むのも大事なことだ。というよりも、ハル……また寝坊したんだってね。朝食、抜いているんだろう? きちんと食べないと駄目じゃないか」
「げっ……なっ、なんでそれを……?」
「部下から報告があったからね。全く……よく寝坊するね、ハルは。今日はどうしたんだい」
 部下……? 頭下げてた奴らか? それともあの腹立たしく思った眼鏡か? まぁどうでもいいか……そんな事より目の前の師匠が少し恐ろしい。笑顔なのにどこか迫力がある。
「……ええと、その。実は変な夢を見まして……」
「変な夢?」
「断片的にしか覚えてないんですが……相手は誰なのかわからないんですけど、斬りかかられて……直感的に、死ぬ……って……思った……そんな、夢……を」
 思い出そうとすると、なんだか気持ちが悪い。死ぬと感じたことではなく、相手の事を考えると……頭のなかに靄がかかるような、とにかくなんだか嫌な感じだ。
「と、とにかく変な夢を見て……飛び起きたらね……寝坊……していました」
「素直で宜しい。そうだ、休憩がてら折角だしブランチにしようか」
「は、はいっ!」
「今日はハルに話があるから、食べながらゆっくり話すことにしよう」
「話……? なんですか」
 師匠は、食事の時に話すよと笑いながら踵を返し食堂の方へと歩いていった。置いていかれると感じ、俺は持っていた木剣を放り出し師匠のあとを急いで追った。

「いただきます」
「いただきます……」
 あれから、食堂についた俺は師匠と向かい合うように席に座り、各々頼んだ料理を食べ始めた……始めたのは、良いのだが。
「うおっ……! ビビったぁ……なんの音かと思えばバンジョウ様が食事してるからか……相変わらずだなぁ」
「なにかが引き摺られてるような音に聞こえるよな……あ、次期導師様もいらっしゃる」
「引き摺られるといえば、お前ら知ってるか? この組織内に伝わる七不思議の一つ、異界に引き込む大鏡の呪い!」
「ああ、大階段の踊り場にあるでっけぇ鏡だろ? 夜中、その鏡は異界に繋がっていて──」
 の、呪い? ちょっと待てなんだその話! 知らないぞ! な……七不思議、だって? つまりその大鏡の呪い以外にもあと必ず六つはそんな話があるっていうのか、組織ここに……くそ、そういう類いの話は苦手……じゃない。通りすがりの奴らが一度足を止めるほどの大きな音の正体。
 師匠がざるうどんをすすっている音だ。
 振り返るレベルの大きさ。豪快だといえば豪快……というかブランチと話していたのにざるうどん。いや、まぁ人がなに食べてようがその人の自由なんだが……それなりの量のざるうどんを食べている人を前にすると自分の食欲が少し失せる。
「……おや、ハル。ほうれん草が残っている。というか、そのホットサンドからわざわざ抜いてるね? 好き嫌いをするもんじゃない」
「げっ……だ、だって苦いし得意じゃないんです……それに緑のもの見てると今日は特に嫌な気分に」
 あの嫌味ったらしい事言ってきた緑髪の奴を思い出す……まぁ、気にしなければ良いだけだし忘れることにしよう。気持ちを落ち着かせるために紅茶を一口飲んでいたら、師匠が綺麗な所作で「ご馳走さま」と手を合わせている。食べるの早……。
「それじゃあ、早速話に入ろうか。ハル、食べながらで良いから聞いてくれ」
「はい……」
 手が汚れるのが嫌だから、ナイフとフォークでホットサンドを切り分けながら話を聞こうと姿勢を整える。目が合うと師匠は柔らかく微笑みながら口をまた開く。
「実はね、つい最近の会議でハルの話になったんだけれど」
「俺の?」
「そう。それで……少し言いづらいのだけれど、ハルは十七にも関わらず世間というものをほとんど知らないだろう?」
「うっ……し、知らないというか知るすべがないというか」
「まぁ、ハルの物心がつく前から、私がずっと組織ここで面倒を見ているからね。外に出さず、ずっと」
 そうだ、俺は組織ここから出たことがない。ずっとずっと、外の世界を知らずに。俺の世界は組織ここが全てだ。
「しかし、世間的には十七歳というのはもう成人した一人の人間ということになる」
「そう、ですね……十六が成人の年齢ですし……」
 うげ、またほうれん草出てきた……避けると師匠が「好き嫌いしない」と抑えてはいるが少し怒っているような声色で注意してきた。苦いし嫌なんだよなぁ、噛まずに飲み込もう……。
「で、だ。流石に世間を知らなさすぎるハルに、導師としての責務を任せられるのか……という話になってね」
「はい……」
「どうせできっこないと豪語する部下もいたんだけど、私はハルならやれると信じている」
「は、はい……? な、何をですか?」
 すると、師匠はにっこりと笑いそして予想外の事を口にした。
「一人で買い物へ、行ってみようか」
「……買い、物……?」
「そう、買い物」
「……その、馬鹿にしないで貰えますか? 買い物くらい出来るに決まってるじゃないですか。わざわざ行かなくても……」
「そうかいそうかい。じゃあハル、通貨はなんだか言えるかな?」
「え?」
 通貨……?
「買い物するのに必ず必要とするのはお金。それはわかるね。なら、そのお金の通貨はわかるかな? 買い物なんて出来るに決まってると言うのならわかるよね」
「え、えっと……」
 知らん知らん知らん! 通貨? 知らない! なんだそれ! こちとら買い物どころか自分の金も持ったことないんだぞ!
「ハル、わからないならわからないと素直に言う勇気も必要だよ」
「う……わ、わかりません……」
「うんうん。素直で宜しい」
 屈辱的だ……でも相手は師匠だからまぁ良いか。他のやつだったら耐えられないが。
「通貨はふみ。ほら、見てごらん。硬貨とお札があるだろう? 例とするなら、いちご大福が二百五十文だとすると、この百文硬貨を二枚に五十文硬貨を一枚出せば買える」
「……はぁ」
 なんで例として出したのいちご大福なんだ……あ、そういえば師匠好きだったな和菓子。和食好きだよな。
「それさえわかれば大丈夫だ。と、いうことで夕刻になったら出発だよ。それまでは他の授業だ。今日このあとは……座学だね。地理と歴史、マナー講習……ふむ」
「師匠? どうしました」
「いや……本当ならね、私はハルに剣術だけでなく魔術も習って欲しいんだ。どちらも使えると、とても便利だから」
 え、今師匠魔術って言ったか? ま、魔術……だけは、嫌だ。
「……せ、師匠……俺、座学はまだしも魔術指南はちょっと……」
「ハルはどうにも魔術の類いが苦手のようだね。使えると便利だというのに」
 と言われても……魔術、よくわからないしなぁ……属性がどうだこうだとか術式? をなんか理解してとかなんとか……師匠が昔一度教えようとしてくれたけど全くわからない覚えられない、覚えられる気がしないと反抗して、師匠もそれで諦めたはずなのに。
「俺には魔術の才能がない訳じゃないと思うんです。でもやっぱり人には向き不向きがあると思うんです。なので俺には向いてない……と思うんですよね」
「私は、ハルはやれば出来る子だと信じているよ。たくさん勉強して、練習すれば使えるようになるよ」
 師匠、全然諦めてくれない……。
「ハル、私がハル以外にも直接指南をしている子達がいるのは知っているね」
「えっ、あ……は、はい」
 組織に有力となる、将来的に有望そうな奴等を見いだしては師匠が面倒見てるって聞いたことあるな。まぁ俺より有望な奴なんていないだろうけど。
「指南している子達のなかにね、一人。魔術の才を見出だした優秀な子がいるんだ。少し拗らせているところはあるけれど私の直属の部下として、よく頑張ってくれる子なんだよ」
「はぁ……」
「その子ね、ハルと同い年なんだよ。ハル、同い年の子が出来るのに出来ないだなんて言わないよね?」
「うっ……」
 痛いところ突かれた気がする。
「……座学の前に……少しだけ、また教えて下さい……」
「よろしい」
 師匠……凄く、いい笑顔だな。しかし、師匠がこうして話すだなんてその部下とやらよっぽど有能なんだろうか。俺と同い年……か。どんな奴か知らないけれど、まぁ機会があれば顔を合わせてやっても良いかな。師匠が面倒見てる奴っていうのはつまり、将来的には導師……要するに俺にも仕えるような奴だろうし。気にしてやらないこともないな、うん。
「よし。じゃあハル、午後からも頑張ろうか」
「はい、師匠っ!」

 と、元気よく答えていたときが一番楽しかった。少しだけ与えられた休憩時間、疲れ果てた俺は自室のベッドでただただなにもない空間を見つめるばかり。
 魔術指南はやはりわからなくて、半刻も経たずに諦める他なかった。師匠は「まぁ、無理にとは言わないから」と笑っていたけれど……幻滅されただろうか。もういい、俺は剣術を極める方を目指すんだ。
 それにそれからの座学……この世界の地理はまぁまだ良いんだが、歴史が長かった。歴史が今を象っているのはわかるんだが、難しいというか混乱する。それに、そのあとのマナー講習! 師匠が細かい。少しくらい良いじゃないかと思うことにも突っ込んでくる。弱音を吐こうもんなら「導師ならば完璧でないといけないよ」と圧をかけられて……はぁ、頭がパンクしそうだ。少しの時間で詰め込みすぎた。
「……そしてこれから、師匠に言われた買い物へ、か……ああっ! 面倒臭いっ! なんで俺がそんなもんに行かなきゃいけないんだっ! 休ませてくれっ!」
 と、言っていても師匠が休ませてくれるはずもなくノックと共に「バンジョウ様がエントランスでお待ちです」という無機質な声が聞こえてきた。仕方なく身支度を整えて部屋を出て目的の場所まで向かっていた俺に、またあの声が。
「おやぁ、導師様。如何なさいました? お綺麗な顔を歪めていらして……なにか不愉快な事でもございましたか?」
「あっ! お前朝の緑の!」
 朝から腹立つ事言ってきた緑髪の眼鏡の少年。そいつがまた話しかけてきた。
「……緑の、ですか。いやまぁ良いです」
「なんの用だ? 師匠待ってるからお前の相手とかしてる場合じゃないんだよ」
「特に用はありません。ただちょっと通りがかったものでして……そうしたら偶然にも導師様がお部屋から出てきたまでのことです。単なる偶然ですよ」
「……そ、そうか」
「さてさて、自分にはまだまだ仕事が残っております故、失礼させて頂きますね。では導師様、ご健闘をお祈り申し上げます」
 いやに笑顔の少年は、深く一礼すると相変わらず長い襟巻きを翻して去っていった。偶然また顔を合わせることなんかあるのか? まぁ、いい。早く師匠のもとへ急がないと。

「……お待たせしました……師匠」
「やぁ、ハル。それでは、準備は良いかな」
「勿論。すぐ終わらせて帰ってきますよ」
 と、言ったは良いが正直な話、全然良くない。部屋でぼけーっとしてたい。時間になったら夕食を摂って、風呂に入ってそして寝たい。買い物? そんな使用人がするような事をなんで俺のような存在がやらなければならないのか。意味がわからない。嫌すぎる。
 とか、言えるわけもない。言ったら師匠になにを言われるか、どう思われるか……。
「ハル? どうしたんだい」
「えっ……あ……い、いえっ。なにも」
「そうかい。なら良いけど……じゃあハル。これが今日買ってきてもらうものを書いたメモだよ」
 うーわ、本当に嫌だ。でも悟られないように笑顔で受けとるしか出来ない。ええと、なになに──
「……小豆、砂糖……白玉粉……」
「帰ってきたらお汁粉を作るから。お願いだよ、ハル」
「なんでお汁粉……」
「体力回復の為だよ。甘いものは体力や魔力の回復に欠かせない。持ち運べる甘味も買ってきて欲しいなぁ、団子とか」
 まさかとは思うが、師匠が食べたいだけとか言わないよな? 違う……よな?
「普通の食事でも回復はするよ。でも甘味は別だ。わかるかな」
「……はい……」
 よくわからないけど、わかった事にしよう。面倒だし。
「さて、じゃあハル。健闘を祈るよ。ハルなら出来ると私は信じているからね」
「……あの、師匠」
「どうしたんだい? 悪いけど店までついていかないよ。私も忙しい身でね。これから部下の書類チェックをしなければならない」
「いや、一人で行ってこいと言われましたしそれは構わないんですけど……その、ど……どこに買いに行けば良いんでしょうか……?」
 と、いう俺の言葉に師匠は驚いたあと「ああ、伝え忘れていたね」と苦笑い。
「大規模小売店があるんだよ。便利なもので、色んな地域に出店してくれている。店の名前は【ゆきち】だよ。なんだかとてもお金持ちな雰囲気がしないかい?」
「そう、ですね?」
組織ここから一番近くにあるゆきちは徒歩で十分あるかないかだ。道順はこう行けばわかる」
 師匠はポン、と俺の額を指で突いてきた。するとその瞬間、その店とやらまでの道のりが頭のなかを巡ってきた。師匠の魔術……なのだろうか。魔術ってこういう事も出来るのか……確かに便利だけど、でもやっぱり無理だ。術式? とやらを理解することが俺には出来なかった。駄目だ、魔術指南思い出して頭痛くなってきた。
「ハル、それじゃあ頑張ってきてね」
「……はい、師匠……」
 ああもう! こうなりゃさっさと行ってすぐ帰ってこよう……買い物なんて、この俺にかかればすぐだからなっ!

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